北風と太陽。

市場にて。

北風

「ねえ、ちょっと。ねえって言ってるの聞こえないの?そうだよ、アンタだよアンタ。なにキョロキョロしてんの、アンタ以外に誰もいないでしょ。そんな事も分からないのかよ。まったく、困るんだよなあ、アンタ達みたいな連中がさ、一番困るんだよ。このクソ暑い中を店番してるだけでもイライラするのに、アンタらみたいな「顔に冷やかし」って書いてるような連中にウロウロされて、あげく商品をペタペタ触りやがってさあ。俺がアンタらの触った包丁を拭かなきゃいけないんだよ。まったくとっとと向こうに行けよ。まったく買う気のない貧乏人どもばっかり寄って来やがる。ほれっシッシ!」


太陽

「はい、いらっしゃい!いらっしゃい!そこの貴方も見とっておくれ。いい包丁なんだよ、ウチのは。なんせウチは鍛冶屋の直営だからね、そんじょそこらの包丁とは訳が違うよ。ホラ兄さん、手にとって触ってみてよ!どう?全体のバランスも刃の質感も全然違うでしょう?兄さんの手の大きさだと、そうだねえ、これくらいのサイズが良いかな?なに?短いのが好きだ?うんうん、使い込んで短くなったような包丁のサイズね。それならこっちの黒鋼がオススメだよ。そっちの白鋼と切れ味は一緒なんだけど黒い分だけ人気が無いから安くしておくよ。え?せっかくだから白鋼にしておく?そうかい?切れ味は本当に同じで高いだけだよ?ありゃー、兄さん悪いねえ。悪いからこいつはオマケだ!研ぎのチケットを二枚あげる。郵便でチケットと包丁を送ってくれれば、ウチの職人が研ぎ直すからね。送料はウチで持つから。まいどありー!」